学芸員室の雑記帳

モノの力

百万塔陀羅尼 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

先日、法隆寺のクラウドファンディングがあっという間に目標額を達成したことが報じられていました。コロナ禍で財政難に陥った法隆寺が維持管理費を募ったもので、返礼品が足りなくなるほどの支援が集まったそうです。

返礼品の中に百万塔のレプリカがありましたが、過去には本物の百万塔が配られていました。明治41(1908)年、現在と同様、法隆寺により「寺門維持基金」の寄付が募られ、寄付者には記念品として百万塔陀羅尼が配られました。百万塔はすべて本物、金額の大きい上納者には本物の陀羅尼経が、少額の上納者には陀羅尼経のレプリカが付いていたようです。陀羅尼経は現存する(制作年が明確な)最古の印刷物ですので、大変貴重な返礼品でした。

私がこのことを知ったのは高校生のとき、母校にその一基が保管されていたからです。母校の卒業生が学校に寄付したもので、木箱とともに、付属図書館の古びた戸棚の中にひっそりとしまわれていました。ただ実際に見たわけではなく、学校にあるという話を聞いただけだったように記憶しています。

卒業して10年経って、教育実習のために再び母校を訪れたとき、ちょうど日本史の奈良時代の授業が担当だったので、百万塔の所在を確認し、満を持して教卓の上で生徒に見せました。残念ながら陀羅尼経はレプリカでしたが、奈良時代に作られた本物の百万塔の威力は凄まじく、私が担当したどの授業のときよりも生徒たちの目は輝いていました。モノのもつ力を改めて実感した体験でした。

博物館はモノを保存し展示する場所、それほどモノが多くはない史料館ではありますが、現在展示中の周五郎の直筆なり、できるだけモノを展示していきたいと思います。