現在は電話機・電子メールなどの通信機器の発達により、慶弔行事以外で見かけることが少なくなった電報。昭和時代では身近な連絡手段として使用されていました。当時、電報は文字数によって金額が決められていたので、必要最低限の文字数で内容を伝える独特の文体が形成されていきました。
帝国興信所(帝国データバンクの旧社名)でも主に調査報告関係の連絡手段として所内で電報を活用しており、連絡事項を独自に定めた記号に変換するための電信略語表が存在しました。当館には昭和29年改訂版の電信略語表が所蔵されています。8ページほどの小冊子ですが、調査問答・報告・一般用語などをすべてカタカナ2文字に割り当てています。
そこで目に入ったのが「タヌ」。これは調査員に対し、調査結果を催促するための電文です。「タヌ」は「未だ報告なきも最早依頼者の希望せし時日を過ぎ茲一日を争ふものに付遅くも本日中に是非報告頼む」のこと。
たった2文字にこれだけの意味が込められているとは驚きです。それにしてもこの文章、よほど急いでいることがありありと感じられます。スピードも重視される興信業ですが、このような鬼気迫る電報が日常的に飛び交っていたのでしょうか。調査員の方々の苦労が偲ばれます。
略語表のなかでも、「タヌ」のように重要・緊急の用語は太字で印字され、目に付くようになっています。
他にも
「トホ」…「(何)日迄に特急にて調査報告頼む」
「ロイ」…「既調の儘直ちに送付頼む」
「リヱ」…「指定の町名存在せず調査不能なり」
等々…
五十音の2文字組み合わせは約2500通りですが、ほぼすべてを略語に使用していたとして、私はとても覚えきれる自信がありません。しかし、若者言葉というのも、複雑なニュアンスの表現を2~3文字の言葉に言い換え、流行とともに次々と誕生しています。意味を知っていないと外国語のようですが、慣れてくると案外覚えられるのかもしれませんね。