学芸員室の雑記帳

手ほどき

先日、当館所蔵の『調査の手ほどき』という史料に接する機会がありました。
ページをめくりますと、昭和43年帝国興信所時代に、社内で将来調査員を目指す内勤者向けに調査の疑問を解きほぐすことを目的に作られた資料とのこと、「手ほどき」という題名にどことなくいにしえや優しさを感じました。「手ほどき」を広辞苑で引きますと、初学者に学芸等の初歩を教えることとのこと。当史料がこれから調査員を目指す社員を対象とした資料であることから、「手ほどき」の表現がとてもしっくりきました。現代流に言いますとマニュアル、HOW TO、手順書といった感じになるのでしょう。調査を一つの技と捉えますと、技術を伝承する目的で先人が作られた熱い思いがひしひしと伝わってきます。

さて、中身を読み進めますと、調査手法、心構え、信用程度の考え方など、信用調査のイロハが非常にわかりやすくまとめられています。社外秘ですのでお見せ出来ないのが残念ですが、ノウハウが凝縮され、現代にもしっかりと伝承されている内容が少なくありません。「報告書は事実の記録である」とのフレーズからは、半世紀以上の月日を経ても調査の根幹は変わることなく、商取引をサポートする調査員の魂は、脈々と引き継がれている、そんな思いに駆りたてられます。
そして、半世紀前の先輩からは「時間の経過とともに変えていく、変わらざるを得ないことはあるけれど、調査の心構えは変わらないよ」、そんな手ほどきを受けた気持ちで一杯になりました。