学芸員室の雑記帳

だれかに話したくなる

2月初旬、NHKで「だれかに話したくなる山本周五郎日替わりドラマ」を見ました。

昭和を代表する時代小説家として知られる山本周五郎の作品を、朗読を交えながらドラマ化したこのシリーズ。約1年ぶり、第2弾となる今回は「鳥刺しおくめ」「暗がりの乙松」「人情武士道」など8話、全10回の放送です。

30分という短い番組内では、毎回、もがきながらも懸命に生きる江戸時代の市井の人々の姿が丁寧に描き出され、起伏に富んだ物語が展開していきます。

なかでも心に残ったのは「松の花」という物語。藩史をまとめるよう申し付けられ、稿本に朱を入れていた主人公は、妻を亡くしたことをきっかけに、世に出ることも、記録に残ることもない、たくさんの庶民の存在が、藩史のかげにはあると気づいていくストーリーです。山本周五郎ならではの、最後にほっとこころ温まる、そして、確かにだれかに話したくなる物語でした。

さて、明日刊行する『帝国データバンク史料館だよりMuse』Vol.40では、かつて帝国興信所に勤務していた山本周五郎の、当館所蔵唯一の直筆資料『震災手記』に焦点をあてます。関東大震災から一年。未曾有の震災を体験してもなお、しなやかで、前向きな強さを感じさせるその手記には、のちに小説家として大成した、独自の視点を垣間見ることができるかも知れません。

Museではこのほか、会社員の立場から三井造船を立ち上げた川村貞次郎について、高千穂大学経営学部の大島久幸教授にご寄稿をいただきました。また、明治以降の倒産史についてもご紹介しています。

だれかに話したくなる、そんな誌面となっていましたら幸いです。
刊行をどうぞお楽しみに!