学芸員室の雑記帳

VHSの記録と記憶

先日社内からの問い合わせに対応するため、VHSに収録された映像を確認する機会がありました。取り扱うのは、この数年ほとんど稼働させていなかった学芸員室のビデオデッキと四半世紀ほど前のビデオテープ。不具合なく見られか一抹の不安を抱きながらも電源を入れ、恐る恐る再生してみることにしました。

すると、思いのほかスムーズに、そして鮮明に映像を視聴することができました。残念ながら問い合わせの回答や手がかりとなる映像は見当たりませんでしたが、いくつかの新たな発見とともに、映し出された人や場所や物事から、当時の時代を感じるという大きな収穫を得ることができました。加えて、今回の資料確認で心に残ったことがもうひとつあります。

VHSの視聴に欠かせない「巻戻し」ですが、いつの間にかデジタルの記録媒体に慣れしまい、この作業のことをすっかり忘れ去っていました。リモコン表示も「早戻し」の表記が一般的となってから幾久しく、危うく「巻戻し」せずに片付けてしまうところでした。
テープが高速で巻き取られていくあの音。終了した時に訪れる突然の静寂。
懐かしい体験がトリガーとなって、映像で見た時代と当時の自分の記憶とが重なり、より豊かな想像力で過去をさかのぼることができたような気がします。

Z世代の言葉では、これこそ「エモい」という表現になるのでしょうか。記録媒体に、何が残されているかということはもちろん重要ではありますが、物品資料そのものが呼び覚ます記憶は、時に感情(emotional)を揺さぶる力を持っています。当史料館で展示している、フロッピーディスクやオープンリールもしかり。自身の記憶を重ねながら見学すると、また新たな景色が見えてくるかも知れません。資料を五感で受け止めて、少しでもその魅力を伝えていけたら。そんなことを考えながら迎えた2023年の年始です。