学芸員室の雑記帳

資料との邂逅

『Muse』42号が無事刊行されました。6回にわたる「資料にみる企業の歴史」の倒産シリーズも、今回の鈴木商店で一旦一区切り、次回からは手形小切手など信用取引の歴史について取り上げていく予定です。倒産の歴史といっても取り上げましたのはほんの一部ですので、また折をみてさまざまな角度から倒産について紐解いていければと思います。

コロナ禍すぐのリニューアル以来、TDBのキーワードの一つである倒産について取り組むことは決めていましたが、明確な指針があったわけではなく、書きながら方向性が定まっていく感じでした。ただ、最後は鈴木商店を取り上げようという漠然としたゴールのみ思い描いていました。鈴木商店をメインに書くつもりで調べていくうちに、TDBとの関連資料が次々と出てきて、資料に導かれるように今回の内容になりました。当初想定していたのとはだいぶ異なりますが、これはこれで「資料にみる」内容になっているかと思います。事前にどんなに想定してみてもその通りになることなどあまりなく、資料に素直に従っていくうちに文章ができあがっていることもよくあります。

遥か昔、卒業論文を書こうという際に、ある先生から「学生の力量なんてそんなに差はない。いい論文を書けるかどうかはいい資料に出会えるかどうかで決まる」というようなことを言われました。いい資料に出会うには運もありますが、それを見極めるためには、日ごろから目を肥やし、明確な目的意識と根気が必要になってくるかと思います。いい資料との邂逅を目指して次号も取り組んでまいります。