学芸員室の雑記帳

100年前の企業動向を探る

『帝国銀行会社要録』

当館では現在、帝国データバンクの前身、帝国興信所が直面した関東大震災にスポットを当てたテーマ展示「関東大震災と帝国興信所」を開催しています。また、先の雑記帳でも触れたとおり、このテーマ展示の開催を機に、震災前後の企業の創業・廃業の推移や、需要の変化など、企業情報にみる関東大震災の詳細な分析に向け、当時帝国興信所が発行していた会社録『帝国銀行会社要録』のデータ化に取り組み始めました。

一方、関連するさまざまな情報に触れていく中で、震災が大きな危機や、転換期となり、時に創業の原点となった企業の歴史にみる関東大震災の情報と出会う機会も多くありました。

例えば、1915年に早川式操出鉛筆(エバー・レディ・シャープ)を発明した早川徳次が創業した「早川兄弟商会」は、関東大震災で工場を喪失し、解散を余儀なくされました。しかしその後、大阪へ移り再起を図ったことが、現在のシャープ株式会社の誕生のきっかけとなりました。

また、新潟県柏崎市内の和菓子の老舗「最上屋」から発祥した「北日本製菓」は、関東大震災の影響で地方への菓子供給が全面的にストップした窮状を見た創業者吉田吉造が、「地方にも菓子の量産工場を」と決意し、震災の翌年に柏崎駅前で事業を興したことが、ブルボン株式会社の原点となっています。

関東大震災がきっかけとなり、シャープ㈱のように拠点を変えた企業、㈱ブルボンのように被災地とは別の場所で創業した企業。また当社のように、大きな被害を受けつつも、東京でなんとか事業を立て直した企業など、混乱の中でさまざまな動向があったことに、改めて気づかされました。

先人が残した資料をいかし、さまざまな視点で当時の様子を探っていくことで、近い未来に発生すると言われている次なる震災の備えにつながれば…。
関東大震災から100年。当時の企業動向を探っていく道のりは平たんではなさそうですが、地道に取り組んでいく所存です。