学芸員室の雑記帳

十館十色~企業博物館その(11)~

黒部ダム(富山県)

十館十色~企業博物館その(6)~にて、ライフラインに関する企業博物館について取り上げましたが、今回はその中の電気、「水力発電」にフォーカスしたいと思います。

日本は山岳地帯が多く水資源に乏しいため、ダムの設置で放水量を調整し、一気に下流に流れるのを防ぐことで、水を効率的に利用することができます。

ダムの歴史は、616年に農業の用水整備を目的として造られた大阪府大阪狭山市の狭山池からはじまったとされ、1888(明治21)年に紡績工場に電力を供給するための三居沢発電所(宮城県)が、日本初の水力発電事業としてスタートしました。その後、日清戦争や日露戦争により重工業が発展し、電力需要は急激に増加していきます。

電力需要の急増により、大容量での水力発電が可能な重力式コンクリートダムが建設されます。その先陣を切ったのが1912(大正元)年完成の黒部ダム(栃木県)。以降、ダムの建築技術は向上し、大正期に入ると大規模なダム建設が進められました。

しかし一方で、建設予定地が居住区だった場合、水没による集落・地域の分断の可能性があり、また地形の変化によって動植物の生態系にも影響が考えられます。その他にも貯水による水質の変化、堆砂の問題もダム建設の課題となっています。

水力発電事業の企業博物館(PR館、資料館含む)は全国で16館。これらの施設では建設に至るまでの経緯、歴史、工事の過程、水力発電のしくみや役割、安全に電力を供給するための点検作業、環境に対する対応など、ダムがもつエネルギー供給源としての重要性を示しつつ、水力発電事業を理解してもらうための場として、一般に公開されています。また、各企業では計画概要をホームページに掲載したり、工事状況を地元向け広報紙でお知らせしたり、見学ツアーを開催するなど、フォローアップ面も考慮されているようです。

企業博物館の運営目的は多岐にわたりますが、このように、一般に理解してもらうことのプライオリティが高いのは、発電事業の企業博物館の特徴ともいえるでしょう。