学芸員室の雑記帳

企業が経験した「そのとき」の記録

明治村に移築再建された帝国ホテル中央玄関

会期を延長して開催しておりました当館のテーマ展示「関東大震災と帝国興信所」も終了まであとわずかとなりました。開始早々から多くの方々にご注目をいただき、史料館まで足を運んでいただきましたこと、この場をお借りして心より感謝申し上げます。年末まで開催しておりますので、引き続きみなさまのご来館をお待ち申し上げております。

さて先日、関東大震災前後の企業の動きを見ている中で、震災発生のまさにそのとき、大きな節目を迎えようとしていた老舗ホテルがあることを知りました。
1890年11月、渋沢栄一と大倉喜八郎によって設立され、日本の迎賓館の役割を担って開業した帝国ホテルです。本館建て替えには、世界三大建築家のひとりであるフランク・ロイド・ライトを起用。1923年9月1日、2代目本館として完成した「ライト館」の落成披露式典が行われようとしていたそのとき、関東大震災が東京を襲いました。

設計時に地盤が軟弱だと知ったライトは、「浮き基礎」と呼ばれる耐震のための特殊構造採用し、当時としては先駆的な電化厨房や、正面に大きな池を備えたことが奏功し、幸いホテルに大きな被害はなく、復興の拠点として罹災企業や外国公館に開放されました。

その後、老朽化により1967年に解体されてしまいましたが、十数年の歳月をかけて、愛知県犬山市にある明治村に移築再建され、関東大震災当時を乗り越えた建物の様子を今に伝えています。また、帝国ホテルでは、「東洋の宝石」と称されたライトの意匠を現在の本館にも残しており、2036年の完成を目指した建て替えにも継承することを発表しました。

震災発生より今年で100年。当館テーマ展示では、当時の帝国興信所の姿を創業者後藤武夫の自伝や震災前後の社内資料とともにたどる試みを行いましたが、改めて、当時の記録をつなぐ必要性と難しさを実感しています。関東大震災をひとつの出来事として終わらせることなく、前後の経緯もとらえながら未来へ引き継ぐにはどうしたらよいのか。残された企業資料と真摯に向かい合い、引き続き考えていきたいと思います。