先日、書店で小説家・山崎豊子の特設コーナーができているのを目にしました。書棚に添えられたPOPによると、昨年は没後10年、今年は生誕100年の節目の年。『白い巨塔』『大地の子』『沈まぬ太陽』など、国家権力や巨大組織の闇を鋭くえぐる「限りなくノンフィクションに近い人間ドラマ」と評された作品の数々は、 “取材の鬼”と呼ばれた山崎豊子が、何年もの月日をかけ徹底的に行った情報収集をもとに執筆されたことも、そこで紹介されていました。
確かに山崎豊子の作品は、どれもリアルな人物描写と緻密な構成、スケールの大きな展開で物語が描き尽くされ、小説を手に取れば一気に読み進めたくなり、映像化されたドラマを一話見れば、次回が待ち遠しくなる作品ばかりです。
中でも、代表作として取り上げられることの多い『華麗なる一族』は、高度経済成長期の金融・鉄鋼業界を舞台とし、人生をかけて仕事に邁進する登場人物たちの人間模様が印象に残る一作。地方銀行頭取で万俵財閥を牽引する主人公・万俵大介と、自ら経営する製鉄会社の発展に情熱を傾ける長男・鉄平。高炉建設の融資をめぐって二人は確執を深めていき…。特設コーナーに平積みにされた小説の表紙を眺めながら、衝撃的なクライマックスを思い起こし、再び読みたくなりました。
さて、明日『帝国データバンク史料館だより Muse』Vol.44が刊行します。
企画連載10回目を迎えた「輝業家交差点」では、高崎経済大学教授の加藤健太先生に、住友金属工業で社長を務めた日向方齊に焦点をあてご寄稿をいただきました。日向は、戦後日本の鉄鋼業界の礎を築き、自由競争と自己責任を実戦した信念の経営者です。山崎豊子は、『華麗なる一族』の執筆にあたり日向を取材し、「小説の中の万俵鉄平という鉄に生き、鉄に死んで行った一人の鉄鋼マンの人間像」を日向から創りあげたと回顧しています。小説と同様、もしくはそれ以上に幾多の困難を乗り越えて、その発展に尽くした日向の足跡を、「輝業家交差点」でたどっていただけましたら幸いです。
刊行次第、このHPで誌面掲載もいたします。
どうぞお楽しみに。