学芸員室の雑記帳

十館十色~企業博物館その(15)~

以前、企業博物館その(3)で、兵庫県の酒造会社が運営する企業博物館について取り上げましたが、全国的に見ても酒造に関する企業博物館は40館以上。当館の企業博物館リストの総数からみると、約6%は酒造に関する企業博物館ということになります。

6%と言われると、「あまり多くない?」と感じるかもしれませんが、企業博物館は、企業、またはそれに準ずる団体が運営していることが前提のため、印刷業、旅館・ホテル、土木建築…など、そのジャンルは千差万別。そのなかで同じ業種が40館以上あるというのは、かなり多いといえるでしょう。

ではなぜ酒造関連の企業博物館が多いのでしょうか。

まず一つ目に、歴史的な背景を展示しやすいことが考えられます。たとえば清酒製造の企業ですが、1962年に酒税法が制定されて以来、需要調整を理由として、業界の新規参入に必要な酒造免許は60年以上認められていないので、既存の酒蔵には原則60年以上の歴史があるといえます。もちろん、100年、200年以上の歴史をもつ企業がほとんどですが、業界全体の歴史が長く、歴史展示に向いていることがわかります。

次に、酒蔵や工場があるため、体験型の博物館が多いこと。また、製造している商品の試飲や販売を同時に行うことで、製品のPRもできます。こういったことから、酒造関連は企業博物館を設立しやすい傾向にあるのではないでしょうか。

ちなみに、これまで新規交付が制限されていた清酒製造免許ですが、令和2年度の税制改正により、「輸出用清酒製造免許制度」が新たに設けられました。輸出目的の酒造に限り免許の交付が可能というもので、令和3年に福島の酒造会社が実際に取得しています。新規参入が難しい業界にも新たなチャンスが到来し、海外でも日本酒ブランドの評価が高まっています。今後の酒造業界の発展と向上が楽しみです。