学芸員室の雑記帳

武蔵野の平和祈念像

今日、8月15日は79回目の終戦記念日。

先日、長崎平和祈念像を制作した北村西望の作品を見に、井の頭自然文化園彫刻館へ行ってきました。動物園の奥にある彫刻館へ、じりじりと暑さにへばる動物たちを見やりながら進むと、木々に囲まれた落ち着いた空間に野外彫刻とアトリエが見えてきます。巨大な平和祈念像を制作したアトリエは、予算が足りず想定よりもサイズが小さくなったといいます。公園には西望の作品が点在し、制作用のミニチュア平和祈念像から巨大な加藤清正像まで、西望を堪能することができます。西望は、戦後は平和、自由をモチーフにした作品を多く手掛けますが、勇壮な男性像を得意とし、戦前は軍人などの銅像も多く制作しました。

かつて帝国興信所の本社社屋前にあった創業者、後藤武夫の銅像も西望の手によるものです。1927(昭和2)年、西望43歳の時の作品です。完成時、創業者は57歳。8尺もあった立像は、戦争時の金属類回収令により供出され、現在は残っていませんが、上半身の塑型が史料館に残っています。間近で実際に見る印象と、写真に撮った印象と、角度によってさまざまに表情を変え、味わい深く、どこか温かみを感じます。

西望は、戦後102歳で亡くなるまで、平和を祈る作品を作り続けます。たくさんの彫刻とシルバーに塗られた巨大な平和祈念像を前に、西望の生涯を想い、平和について改めて考える夏の一日となりました。