学芸員室の雑記帳

大正時代の冷蔵庫

帝国データバンクの出版物には様々な広告が掲載されています。その中から気になった昔の広告を一つご紹介します。『帝国興信所内報(現・帝国タイムス)』の大正2年(1913年)6月18日、2111号に載っていたものです。

これは氷を使った冷蔵庫の広告のようで、「完全なる冷蔵器」「少量の氷でよく冷える」とあります。現代のような電気式の冷蔵庫が登場する以前から冷蔵庫(この広告では冷蔵器と呼ばれていますが)は存在していたんですね。

調べてみたところ、この広告に載っているような氷式冷蔵庫が登場したのは明治時代のようです。一般的な氷式冷蔵庫は木製で、上下二段に分かれており、それぞれの段に扉がありました。上段には氷を、下段には食品を入れます。氷による冷たい空気が下に降りて来て、それで食品を保冷する仕組みでした。
ただしこのイラストの冷蔵庫はもう少し複雑な構造で、左上に氷を入れています。高級なタイプのものだったのかもしれません。
氷は解けていってしまうため、毎日取り替える必要がありました。替えの氷は氷屋が毎日リヤカーで運んできて、玄関先で必要な分だけ切って売っていました。この広告でも「上等の飲食用氷を特別直(値)段にて配達」とあります。

昭和初期に電気冷蔵庫が登場してからも、しばらくは氷式冷蔵庫のほうが一般的な存在でした。1946年から1974年まで新聞で連載されていた漫画『サザエさん』にも何回か氷式冷蔵庫が出てきています。
現代では氷式冷蔵庫はほとんど見られなくなりましたが、完全になくなったわけではありません。味にこだわりのある飲食店などでは、氷式冷蔵庫を使っているところがあるようです。電気式冷蔵庫より管理は大変でも、それを補って余りある魅力もあるのでしょう。こうした需要があるため、今でも氷式冷蔵庫を生産している会社もあります。

この広告にはもう一つ気になるポイントがあります。会社名を見ると、「岩谷商会」と書かれているのです。岩谷商会と言えば煙草(天狗煙草)で有名ですが、冷蔵庫も作っていたんですね。